「パラレルキャリア人材共創促進事業」という県主体のサービスがある。首都圏で活躍する専門スキルを持った人材と福島県の企業をマッチングするものだ。専門スキルを持ち、福島や地域貢献に関心をもつ人が企業の課題解決に伴走してくれる。サンワ電装ではこのサービスでマッチングした3人のスペシャリストにIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といった新規事業などに参加してもらっている。1から勉強するのでは多くの時間を必要とするし、自社の規模では新たに担当者を採用するのも難しい。彼らのような道先案内人がいれば、ずっとスムーズだ。例えば、ソフトウェア開発に関わる部分は、自社単独で行うことは難しい。そこでパートナーシップを組んだスペシャリストが開発会社に私たちが実現したいことを「翻訳」し、橋渡しをしてくれている。
業務はもちろん、精神的な支えにもなってもらっている。自社にノウハウがない仕事は見通しがつきにくい。その点、彼らは経験が豊富で、躓きやすいポイントも理解している。ガイドと山登りをするように「こんな感じで大丈夫ですか?」「順調ですよ!」だけで、安心して業務に集中できる。
マッチングするときは、首都圏で十分に活躍している彼らが、なぜ福島の企業のプロジェクトに取り組むのか?その理由を教えてもらっている。「プロジェクト全体に携わった成功事例を作りたい」「自分のソフトウェア開発力を現場の困りごとでこそ生かしたい」など理由はさまざまだ。パートナーのそういった思いに応えたいし、大きな意味で目標を共有することができればと思っている。
私は一人では何もできないと落ち込むとき、20年以上も前に聞いた言葉を支えにしている。ある歌手の「世界で一番、歌が上手いのなら、バンドでなくていい」という言葉だ。「自分は天才じゃない、だからバンドの仲間と支えあって頑張るんだ」という文意だった。目標が共有でき、異なるスキルを持った仲間が集まれば、一人では到底達しえないことも可能になるかもしれない。
特技が異なるからこそ尊重し合える。自社の社員に対する気持ちも一緒だ。「化学工場の計装工事」で確固たる技術を持つ熟練の社員がいるからこそ、サンワ電装は「化学工場のIoT・AI」に挑戦できる。
パラレルキャリア人材でタッグを組んだスペシャリスト3人。加えて技術面は福島県ハイテクプラザに、知財面は同じく福島県知財総合支援窓口に親身なサポートを頂いている。施工段階に入れば、社員は皆プロだ。全員でチームサンワだと思っている。
「従来の技術と新しい技術を組み合わせて顧客に新しい価値を提供する」この試みは、チームで戦ってもなお、一筋縄ではいかないだろう。それでも小さな当社が新分野に挑戦できること自体、周囲の方々にも時代にも恵まれたと考えている。この幸運に感謝しつつ、一丸となって挑戦を続けていきたい。
福島民報 2022年7月7日掲載
留言